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営業とバックオフィスのコラム

業務棚卸しとは?やり方・項目・粒度を記入例と生成AIプロンプトつきで解説業務棚卸しとは?

目次

はじめに

「業務をアウトソーシングしたいが、そもそも何を切り出せばよいのか分からない」「AIやシステムを活用したいが、どの業務から取り組めばよいのか決められない」
こうした検討を進めるときに、共通して必要になるのが、現在どのような業務が行われているのかを把握することです。そこで役立つのが業務棚卸しです。今ある業務を、誰が、何のために、どれくらいの量で、どのような判断をしながら行っているのかを整理します。棚卸しは、すべて人の手だけで進める必要はありません。パッセージ株式会社でも、業務の棚卸しや効率化のアイデア出しにAIを活用しています。本記事では、業務棚卸しの意味から、棚卸し表に入れる項目、業務をどこまで細かく分けるかというところから、実際の進め方まで解説します。請求業務の記入例やAIへのプロンプト例も紹介しますので、自社の業務整理に活用していただけますと幸いでございます。

業務棚卸しとは

業務棚卸しの定義と目的

業務棚卸しとは、対象とする部署や業務領域で行われている業務を洗い出し、業務ごとに目的・担当者・業務量・進め方・判断・課題などを整理する取り組みです。頻度や所要時間といった数値だけでなく、何のために行っているのか、どこで判断が必要なのか、担当者が何を負担に感じているのかといった情報も整理します。

例えば、「請求業務に時間がかかっている」と分かっても、それだけでは改善方法を決められません。

  • 請求情報の入力に時間がかかっている
  • 契約条件の確認に手間がかかっている
  • 営業部門への確認が頻繁に発生している
  • 上長の承認待ちで業務が止まっている

同じ「請求業務が大変」という状態でも、原因によって取るべき対策は変わります。棚卸し表は、それ自体を完成させることが目的ではありません。整理した情報を使って、次のような判断ができる状態をつくることが目的です。

判断したいこと 主に確認する情報
続ける必要のない業務や重複している業務はないか 業務の目的、成果物の受け取り手、実施している理由
特定の担当者に依存していないか 担当者、代わりに対応できる人、判断基準、手順書
負担が特定の人や時期に集中していないか 業務量、作業時間、締め日、繁忙期
自動化・AI活用・外部委託を検討できるか 作業内容、使用する情報、判断・例外、情報の扱い

業務可視化・業務フロー作成との違い

「業務棚卸し」「業務可視化」「業務フロー作成」は、実務では近い意味で使われる場合もあります。本記事では、業務改善を進めるための流れとして、次のように整理します。

言葉 本記事での位置づけ 主に明らかにすること
業務可視化 業務の実態を見える形にする取り組み全体 業務の種類、流れ、量、役割、課題
業務棚卸し 業務可視化を進める方法の一つ どのような業務があり、誰が、何のために、どれくらい行っているか
業務フロー作成 特定の業務をさらに詳しく確認する方法 作業の順番、担当者の切り替わり、判断、分岐、受け渡し

まず棚卸しで全体像をつかみ、その中から負担が大きい業務や、判断・部署間の受け渡しが多い業務を選んで、必要に応じて詳しいフローを作成する方が進めやすくなります。

BPR・業務改善との関係

BPRや業務改善を進める際には、現在どのような業務が行われているのか、つまりAS-IS(現状)を把握する必要があります。業務棚卸しは、そのための方法の一つです。

BPR全体の考え方や、AS-ISからTO-BE(あるべき姿)を設計する流れについては、「BPRとは?業務改善との違い・進め方をわかりやすく解説」で詳しく解説しています。本記事では、BPRそのものではなく、AS-ISを把握するための実践的な業務整理に焦点を当てます。

生成AIと外部支援の2つの使い方

生成AIや外部の専門家は、業務整理がすべて終わってから利用するものではありません。

支援の種類 業務を整理するために使う 業務の実行を支えるために使う
生成AI 業務の書き出し、質問、表の整理、抜けの確認、改善案の検討 文章作成、情報分類、書類の読み取りなど
外部の支援 業務の洗い出し、手順整理、役割分担の検討 合意した範囲の業務を委託する

大切なのは、AIや外注を最初から答えにしないことです。まず現在の業務を理解し、そのうえで最も適した方法を選びます。

業務棚卸し表に入れる項目

棚卸し表は、最初からすべてを細かく調べるのではなく、基本項目で全体を把握し、改善候補になった業務だけを詳しく確認する二段階で進めると負担を抑えられます。

基本項目はSIPOCの考え方を使って整理する

業務の全体像を整理する際に役立つのが、SIPOC(サイポック)です。SIPOCは、次の5つから業務を俯瞰するフレームワークです。

  • Supplier:提供者
  • Input:入力
  • Process:処理
  • Output:出力
  • Customer:受け取り手

業務を「誰から何を受け取り、どのように処理し、何をつくって、誰に渡すのか」という流れで捉える考え方で、詳細な業務フローを作成する前に、業務の入口から出口までを大きく捉える際に活用できます(参考:ASQ「SIPOC」)。業務棚卸しでは、このSIPOCの考え方に、目的・担当者・業務量・判断・課題などを加えて整理すると分かりやすくなります。

以下は、月次の請求業務を想定した記入例です。件数・時間・担当者・課題は説明用の例であり、Passageの支援実績を示すものではありません。

項目 書く内容 記入例
業務領域・業務名 どの領域の、何の業務か 経理/月次請求書の発行・送付
目的・完了した状態 何のために行い、どうなれば完了か 正しい請求内容を期日までに取引先へ伝え、送付記録が残っている
提供者(Supplier) 誰から情報や依頼を受け取るか 営業部門、契約を管理する担当者
インプット(Input)・開始条件 何の情報を使い、何をきっかけに始めるか 売上データ、契約条件、請求先情報。月次締め処理後に開始
主な作業の流れ(Process) 業務の大まかな工程 条件確認→金額確認→作成→承認→保管・送付
アウトプット(Output) 何ができあがるか 承認済みの請求書、送付記録
受け取り手(Customer) 成果物を誰が受け取り、何に使うか 取引先が支払いに使用。経理担当者が入金確認に使用
担当者・代替担当者 普段の担当者、確認者、不在時に代われる人 主担当A、承認は課長。作成・保管・送付はBも対応可能
頻度・件数 いつ、どれくらい発生するか 月1回、当月分20件をまとめて処理
実作業時間 手を動かす時間、確認・判断する時間 1回20件分で合計180分。Aが160分、課長が20分
判断・例外 判断が必要な場面や通常どおり進まないケース 契約変更、金額差異、郵送希望への対応
課題・負担感 手間、不安、止まりやすいところ 手入力が多い。課長が不在だと承認が止まる

「目的・完了した状態」は、できるだけ具体的に書きます。「請求書を作成するため」では、作業を言い換えただけです。「正しい請求内容を期日までに取引先へ伝える」と考えると、請求書の作成だけでなく、条件確認、承認、送付まで含めて業務の範囲を捉えられます。

改善候補の業務で追加する項目

詳しく調べる業務には、次の情報を追加します。

追加項目 確認する内容
実施根拠 法令、契約、社内規程、取引先との取り決め、慣習など、何に基づく業務か
判断基準・例外の詳細 誰が何を根拠に判断し、判断できない場合は誰に確認するか
使用ツール・データ形式 会計ソフト、Excel、スプレッドシート、メール、紙、PDFなど
期限・待ち時間 いつまでに終える必要があり、どこで止まりやすいか
情報の扱い・閲覧権限 個人情報や機密情報の有無、誰が閲覧・更新できるか
手順書 手順書があるか。現在の実務と一致しているか

実施根拠が「慣習」になっている業務は、必要性を確認する候補の一つです。ただし、「昔からやっているから」という理由だけで不要と判断してはいけません。誰が成果物を利用しているのか、やめた場合にどのような影響が出るのかを確認してから判断します。分からない項目は、推測して埋めずに「要確認」としてください。

工数の数え方

月間工数の基本的な考え方は、次のとおりです。

月間工数=1回あたりの実作業時間×その月の実施回数

注意したいのは、「1回」の意味です。先ほどの請求業務では、「1回」は請求書1件ではなく、当月分20件をまとめて処理することを指します。この180分に、さらに20件を掛けてはいけません。

業務の種類 条件の例 工数の考え方
週次業務 1回1時間、その月は4回実施 当月の工数は4時間
年次業務 年1回、合計40時間 月平均では約3.3時間。ただし実際には特定の月に40時間発生する
不定期業務 過去3か月の実施回数が3回・4回・8回、1回30分 月平均5回で平均2.5時間。多い月は8回あることも記録する

年次業務や不定期業務は、平均値だけでは繁忙の集中が見えません。実際に発生する時期や件数の幅も残しておきます。

また、作業時間と待ち時間は分けて考えます。上長の承認を1日待っていても、その間に別の仕事ができるのであれば、待っていた時間をそのまま担当者の工数には加えません。一方で、催促や進捗確認に使った時間は作業時間として記録し、承認待ちによって業務全体が遅れているのであれば「課題」として記録します。

初回は担当者の概算でも構いません。ただし、「実測」「業務記録から集計」「担当者の概算」のどれなのかを区別し、改善効果を検証する段階で必要な部分だけ精度を上げます。

業務の粒度の決め方

業務棚卸しで迷いやすいのが、どこまで細かく書くかという「粒度」です。「経理業務」では大きすぎて中身が分からず、「ファイルを開く」「セルをクリックする」まで書くと、細かすぎて全体像が見えにくくなります。

業務領域・業務・作業を分けて考える

階層 意味 例
業務領域 関連する複数の業務を含む大きなまとまり 経理
業務 一定の目的を達成するための、一連の仕事のまとまり 月次請求書の発行・送付、入金消込
作業 業務を構成する個々の手順や処理 請求条件を確認する、請求書を作成する

「業務」は、操作の名前ではなく、目的や成果と結び付けて考えることが重要です。例えば、「メールを送る」「Excelを更新する」は単独の業務というより、何らかの業務を構成する作業です。同じメール送信でも、請求書を取引先へ送ることと、問い合わせに回答することでは、目的も確認すべき内容も異なります。

最初は業務単位、改善候補だけ作業単位に分ける

最初は、「月次請求書の発行・送付」「入金消込」「経費精算の確認」のように、目的を持った業務の単位で一覧にします。そのうえで、負担が大きい業務や、特定の担当者に依存している業務などを選び、作業単位まで分解します。作業を区切る目安は、次のようなポイントです。

  • 担当者や部署が変わる
  • 判断が必要になる
  • 情報やデータの受け渡しが発生する
  • 使用するツールやデータ形式が変わる
  • 待ち時間や差し戻しが発生する

最初の棚卸しで、クリックやキー入力といった操作単位まで分解する必要はありません。

操作そのものを自動化する段階になったら、必要に応じてさらに細かく確認します。

記入例:請求業務を作業に分ける

先ほどの「月次請求書の発行・送付」を、作業単位まで分けてみます。

作業 担当・代替担当 実作業時間 判断・受け渡し 確認したいこと
請求条件を確認する A・代替なし 40分 契約変更や値引きの反映を判断 判断基準が記録されているか
請求金額を確認する A・代替なし 30分 差異があれば営業へ確認 差異の原因と確認先
請求書を作成する A・Bも対応可能 60分 確認済みの金額を入力 転記や手入力が重複していないか
請求内容を承認する 課長・代替なし 20分 承認または差し戻し 不在時の対応、承認待ちの期間
PDF化して保管する A・Bも対応可能 10分 承認済みの請求書を保管 保存場所、ファイル名、閲覧権限のルール
取引先に送付し記録する A・Bも対応可能 20分 宛先と送付方法を確認 誤送付防止、郵送などの例外

合計180分は、Aの160分と課長の20分を合わせた時間です。業務単位の180分と、作業単位の内訳を両方集計すると二重計上になります。全体の工数を計算するときは、どちらの単位で集計しているのかをそろえてください。

作業に分けることで、例えば次のことが確認できます。

  • 判断が必要な作業に、代わりに対応できる人がいない
  • 入力や保管、送付は比較的手順をそろえやすい
  • 承認待ちが業務全体の遅れにつながっていないか確認する必要がある

ただし、作業に分ける目的は業務を理解することであり、委託や自動化の範囲を必ず細切れにすることではありません。作業ごとに担当を分けすぎると、かえって受け渡しや確認が増える場合もあります。最後は、前後工程を含めて業務全体が無理なく進むかを確認します。

業務棚卸しのやり方:生成AIと進める5つのステップ

業務棚卸しは、次の5つのステップで進めます。

  1. 目的・範囲・記入ルールを決める
  2. 担当業務を書き出し、AIとの対話で補う
  3. 業務の負担を比較し、詳しく調べる候補を選ぶ
  4. 候補業務の作業と前後のやり取りを整理する
  5. 現場とすり合わせ、次に調べることを決める

ステップ1:目的・範囲・記入ルールを決める

最初に、「棚卸しの結果を使って何を判断したいのか」を決めます。例えば、次のような目的です。

  • 月末の業務負担を減らしたい
  • 担当者が不在でも業務が止まらないようにしたい
  • アウトソーシングできる業務を見つけたい
  • AIや自動化を活用できる業務を探したい

目的が決まったら、対象となる部署や業務領域を設定します。「経理業務」「営業事務」「問い合わせ対応」のように、まず一つの領域から始めても構いません。

複数の担当者が記入する場合は、業務名の付け方、記入項目、「1回」の数え方などを先に共有します。また、集めた情報を誰が見て、何に使うのかも説明します。人事評価に使う目的がないのであれば、そのことも明確にしておきましょう。

ステップ2:担当業務を書き出し、AIとの対話で補う

最初から整った表を書く必要はありません。例えば、次のように普段の業務を自分の言葉で説明します。

月末に営業から売上の情報を受け取って請求書を作成しています。契約条件が変わっていることがあり、その確認に時間がかかります。上長が不在だと承認が止まります。送付方法が取引先ごとに違うことも負担です。

この説明を生成AIに渡し、足りない情報を質問してもらいながら棚卸し表へ整理します。音声入力が使える環境であれば、まず普段の仕事について話し、その内容を整理してもらう方法もあります。AIに入力する前に、会社が利用を認めたAI環境か、どこまでの情報を入力してよいかを必ず確認してください。

業務棚卸しを手伝ってもらうプロンプト例

あなたは、業務棚卸しを支援する聞き手です。
以下の説明をもとに、私が担当している業務を整理してください。

目的は、現在の業務を把握し、
詳しく確認する業務を見つけることです。

この段階で、AI導入や外部委託を結論にしないでください。

【チームの役割・達成したいこと】
ここに記入

【普段行っている仕事・困っていること】
ここに自由に記入

【進め方】
・「業務」と、その中の「作業」を区別してください。
・不足している情報は、一度に3問まで質問してください。
・私の回答を待ってから、次の質問や表の更新に進んでください。

質問では、特に次の点を確認してください。
・何をきっかけに始まるか
・誰から何を受け取るか
・成果物を誰が何に使っているか
・判断に迷うのはどのような場面か
・判断できない場合は誰に確認するか
・私が不在の場合、誰が代わりに対応できるか
・月末、期末、年に数回だけ発生する業務はないか

回答をもとに、次の項目で表にしてください。

業務名
目的・完了した状態
提供者
インプット・開始条件
主な作業の流れ
アウトプット
受け取り手
担当者・代替担当者
頻度・件数
実作業時間
判断・例外
課題・負担感

【注意事項】
・分からない項目は「要確認」としてください。
・私が伝えていない担当者、件数、時間、手順を、
  現在の事実として補わないでください。
・抜けていそうな業務がある場合は、
  勝手に追加せず「この業務も行っていますか」と質問してください。
・現在の業務と、改善案としての提案を分けてください。

生成AIとの対話だけでなく、日報、カレンダー、メールやチャット、既存の手順書なども確認すると、抜け漏れを減らせます。特に、次の業務は漏れやすいため注意します。

  • 月末・期末・年に数回だけ発生する業務
  • 突発的な問い合わせやトラブル対応
  • 他部署から依頼されている業務
  • 確認・ダブルチェック・照合作業
  • 引き継ぎや新人への説明
  • 書類やデータの整理・保管・廃棄

Passageでも、業務内容や困りごとを言語化し、生成AIから質問を受けながら業務を整理したり、効率化のアイデアを検討したりしています。

ステップ3:業務の負担を比較し、詳しく調べる候補を選ぶ

すべての業務を同じ深さで分析する必要はありません。まずは、どの業務を詳しく調べるかを決めます。その際は、作業時間だけではなく、次の6つの視点から比較します。

確認する視点 見るポイント
発生量 頻度や件数が多いか。繁忙期に集中していないか
工数 1回・1件・1か月あたりにどれくらい時間を使っているか
担当者の負担 判断への不安、確認、調整、心理的な負担が大きくないか
属人性 特定の担当者しか対応できない状態になっていないか
影響・リスク ミスや遅れが、顧客、金銭、契約、法令、品質などへどの程度影響するか
改善余地 重複入力、転記、待ち時間、不要な確認などが見られないか

例えば、それぞれを「低い・中程度・高い」の3段階で仮評価しても良いかと思います。重要なのは、精密な点数を出すことではなく、「なぜこの業務を詳しく調べたいのか」を説明できる状態にすることです。

例えば、「負担が高い」だけではなく、

「判断基準がなく、担当者が毎回対応方法を考えている」

「件数は少ないが、ミスすると取引先への請求に影響する」

といった理由まで記録します。また、負担が大きいからといって、そのままAIや自動化の対象になるわけではありません。負担の原因が不要な承認や曖昧なルールであれば、最初に見直すべきなのは業務そのものです。この段階では、「自動化する業務」を決めるのではなく、詳しく調べる価値のある業務を選ぶと考えます。

ステップ4:候補業務の作業と前後のやり取りを整理する

詳しく調べる業務を選んだら、その中で行われている作業を整理します。「確認する」「送る」とだけ書くのではなく、「経理担当者が契約情報と売上データを照合する」のように、誰が何をするのかが分かる形にします。自分の作業だけではなく、前工程から何を受け取り、次工程へ何を渡しているかも確認します。

担当者や部署の切り替わりが多い場合は、スイムレーンチャートを使うと役割分担を把握しやすくなります。人・システム・AIなどの間で、どのような依頼や応答が行われているかを詳しく確認したい場合は、シーケンス図を使う方法もあります。ただし、すべての業務で図を作る必要はありません。箇条書きや表だけで十分に理解できる場合は、そこで止めても構いません。

生成AIへ作業一覧と登場する担当者・部門・システムを渡し、図のたたき台を作成してもらう方法もあります。その場合も、担当者、順番、判断、分岐などが実際の業務と合っているかは人が確認します。また、AS-ISを整理している段階では、現在使っていないAIやシステムをフローへ混ぜないようにします。現状と改善後の案は分けて整理してください。

ステップ5:現場とすり合わせ、次に調べることを決める

作成した棚卸し表や業務フローは、実際の担当者に確認してもらいます。特に確認したいのは、次の点です。

  • 抜けている業務や作業はないか
  • 担当者によって進め方が違わないか
  • 例外が起きた場合の確認先は正しいか
  • 同じ情報を複数の担当者や部署で入力・確認していないか
  • 前工程と後工程で認識がずれていないか

確認後は、改善候補ごとに「何が問題か」「何を追加で確認するか」「誰が次の検討を進めるか」を決めます。例えば請求業務であれば、次のように整理できます。

請求情報の確認と転記にかかる負担を減らしたい。まず営業部門から受け取る情報の形式と、不足情報が発生する理由を確認する。その結果をもとに、入力方法の統一、既存システムの機能、AIによる確認補助、役割分担の変更を比較する。

生成AIを使うときの注意

業務棚卸しには、顧客情報、従業員情報、契約条件、社外秘の運用などが含まれる場合があります。会社が利用を認めているAI環境を使い、入力してよい情報の範囲を事前に確認してください。必要に応じて、個人名・顧客名・具体的な金額などを伏せ、業務構造だけを説明する方法も検討します。ただし、「名前を消したから入力してよい」と単純に判断するのではなく、利用するAIサービスや社内ルールに応じて確認することが重要です。

また、AIが整理した表や図は、見た目が整っていても内容まで正しいとは限りません。担当者、件数、時間、判断基準、例外処理などは、確認が済むまでは仮説として扱います。

棚卸しの結果を業務改善につなげる

まず業務そのものを見直す

現在行っている業務を、そのまま速くすることだけが業務改善ではありません。棚卸し後は、まずその業務自体を見直します。その際に使える考え方の一つが、ECRS(イクルス)です。

ECRSは、次の4つの視点から業務を見直す考え方です。

  • Eliminate:排除
  • Combine:結合・分離
  • Rearrange:入替え・代替
  • Simplify:簡素化
視点 棚卸し表で確認すること 検討例
排除:やめられないか 目的、受け取り手、実施根拠 使われていない報告書の必要性を確認する
結合・分離:まとめる、分ける 同じ情報の重複処理、通常処理と例外処理 部署ごとに異なる申請方法をまとめる
入替え・代替:順番や担当を変える 待ち時間、差し戻し、手戻り 請求書作成後の確認を、作成前へ移す
簡素化:簡単にできないか 手順、様式、判断基準のばらつき 判断基準を文書化し、入力様式をそろえる

「担当者が目的を説明できない」という理由だけで、不要な業務と決めてはいけません。契約上の必要性、社内規程、他部署での利用などを確認してから判断します。

「誰が行うか」と「どう処理するか」を分けて考える

業務を見直した後は、実行方法を検討します。自動化、AI活用、外部委託、社内対応は、4つの中から一つだけを選ぶものではありません。

判断する軸 検討する内容
誰が行うか 社内で行う、外部に任せる、社内外で分担する
どう処理するか 人が対応する、ルールで自動化する、AIで補助する、組み合わせる
誰が判断・承認するか 例外を誰が判断し、結果を誰が確認・承認するか

例えば、「外部の担当者がAIで確認依頼文の案を作成し、社内の責任者が内容を確認して送信する」という組み合わせも考えられます。実際に業務を移管したり自動化したりする段階では、担当範囲、判断基準、例外時の連絡先、情報の扱い、最終的に結果を確認する人を明確にします。

本当に実行できるかも確認する

業務を詳しく説明できることと、その業務をAIやシステムで実行できることは別です。実行方法を検討するときは、次の点も確認します。

確認すること 具体的な問い
必要な情報を使えるか 情報はどこにあり、必要な形式で取得できるか。利用する権限があるか
現在の環境で実行できるか 必要な機能やシステム連携が使えるか
結果を確認できるか 正しい結果の条件を説明できるか。誰が確認するか
継続して運用できるか 業務ルールや情報が変わった際、誰が更新・管理するか

AIエージェントを作ること自体を目的にする必要もありません。

業務によっては、

  • 手順を見直す
  • 既存システムの機能を使う
  • 単純なルールで自動化する
  • 生成AIに文案作成だけを任せる

まずは業務上の目的を確認し、その目的を実現できる方法を比較します。

AIに改善アイデアを比較してもらうプロンプト例

以下は、担当者と確認した業務棚卸しの情報です。

この業務の目的を保ちながら、
負担を減らす改善案を比較してください。

【業務の目的・棚卸し表の内容・負担の内容】
ここに記入

【利用できるシステム・制約】
分かる範囲で記入
不明な項目は「未確認」と記入

【依頼内容】
1. 現在分かっている課題と、
   まだ確認が必要なことを分けてください。

2. 廃止・統合・順番や担当の変更・
   手順や判断基準の整理など、
   業務そのものを見直す案を検討してください。

3. 「誰が行うか(社内・外部・分担)」と
   「どう処理するか(人・ルールによる自動化・AI補助)」
   を分けて比較してください。

4. 各案について、
   ・期待する効果
   ・必要な情報、機能、権限
   ・実現可能性を確認するための事項
   ・リスク
   ・人が確認・判断する箇所
   ・小さく試す方法
   を示してください。

【注意事項】
・AIやツールの導入、外部委託を前提にしないでください。
・現在の事実と改善案としての仮説を混ぜないでください。
・削減時間や費用を根拠なく数値化しないでください。
・利用できる機能や権限が不明な場合は「要確認」としてください。
・前後工程の担当者へ負担を移していないかも確認してください。

AIが出した案は、現場の制約や前後工程との関係を確認してから採否を判断します。個別の作業時間が短くなっていても、確認作業や例外対応が増え、別の担当者の負担が増えていれば、業務全体では改善になっていない場合があります。

業務棚卸しに関するよくある質問

AIだけで業務棚卸しはできますか?

AIだけで、現在の業務を正確に把握することはおすすめしません。AIは、質問による聞き取り、表の整理、抜けていそうな業務の確認、改善アイデアの整理などに活用できます。一方で、実際に誰がどの手順で対応しているか、何を根拠に判断しているかといった事実は、担当者への確認や業務記録を使って確かめる必要があります。

定型業務が少なくても棚卸しできますか?

できます。企画や調整のように毎回手順が変わる業務でも、

  • 何を達成する業務なのか
  • 誰から何を受け取るのか
  • どのような成果を誰へ渡すのか

は整理できます。詳細なフロー図にしにくい場合は、SIPOCで全体像を整理し、共通して行う活動や、判断に迷う場面を言語化するところから始めてください。

専用ツールは必要ですか?

最初から専用ツールを導入する必要はありません。ExcelやGoogleスプレッドシートなどの表計算ソフトでも始められます。重要なのは、使用するツールよりも、記入する項目と粒度をそろえ、担当者が確認・更新できる状態にすることです。

どのくらいの期間がかかりますか?

対象範囲と、どこまで詳しく確認するかによって変わります。最初から全社の完成版を目指すのではなく、「業務一覧を作る」「担当者と確認する」「詳しく調べる業務を選ぶ」と段階を分けて進めることをおすすめします。業務時間を実測する場合は、月末や年末など、対象業務が実際に発生する時期も考慮してください。

まとめ:業務棚卸しは、改善する対象を見極めるための準備

業務棚卸しは、対象範囲の業務を洗い出し、目的・担当者・業務量・進め方・判断・課題を整理する取り組みです。進める際には、次の3点を意識してください。

  • SIPOCの考え方を使い、まず業務全体の入口から出口を整理する
  • 全体は業務単位で把握し、詳しく調べる業務だけを作業単位に分解する
  • いきなりAIや外部委託を当てはめず、まず業務そのものを見直す

業務棚卸しそのものには、生成AIも活用できます。

人が業務の実態を伝え、AIを使って整理し、現場で確かめる。実行する方法は、業務の目的と実現可能性から選ぶ。

この流れで進めることで、棚卸しを一覧表の作成で終わらせず、業務改善、標準化、自動化、AI活用、アウトソーシングの検討につなげられます。まずは、自分やチームの役割と、負担を感じている業務をいくつか書き出すところから始めてみてください。

Passageでは、バックオフィス業務の実行だけでなく、お客様と一緒に業務内容や課題を整理し、よりよい業務の進め方を考える支援も行っています。何を切り出せばよいか決まっていない段階でも、業務整理やアウトソーシングについてご相談いただけます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


執筆者:宜野座大導|Passage株式会社 代表取締役

BtoB営業やバックオフィス支援に携わるとともに、法人向けAIエージェントの講師として、業務の言語化やAI活用を検討するための考え方を伝えています。

参考資料

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